πのはなし

π(パイ)のはなし

1980年代、90年代に円周率の計算で記録を次々に塗り替えた、円周率計算の第一人者である金田康正氏による、πのはなし。

10億ケタの計算を成し遂げた後の1991年に出版された本であるため、そこで紹介されているスパコンによる計算の話は、現在から20年以上も前の古い話になってしまった。
日進月歩のIT分野において、コンピュータの計算速度が勝負の鍵を握る、円周率計算では、もはや10億ケタはすっかり時代遅れの記録だ。
書籍自体も絶版で、今ではなかなか手に入らない。

しかしながら、その計算に日米の科学技術の威信をかけた戦いが繰り広げられた事実に、読んでいても胸を熱くさせられる。

「なぜ円周率の計算をするのか?」

その原動力は知的な好奇心だが、それ以外にも高負荷な計算の継続、膨大なデータ入出力など計算機の性能をフルに使うことによる、性能評価(ベンチマーク)としての意味合いも大きい。

10億桁を計算した後に出された、この書籍のコラムには次のように記されている

コンピューターが作られた40年代からの記録は、40年代が2037ケタ、50年代が1万6167ケタ、60年代が50万ケタ、70年代が100万1250ケタとなっています。
したがって、80年代は実に1000倍強のケタ数の伸びを記録したことになります。(略)
1992年末には、20億ケタの大台にのるのではないでしょうか。しかし80年代におけるこのような記録の伸びは、今後もう期待できないでしょう。

はたして、この予想は正しかっただろうか。

円周率計算の歴史はWikipediaに詳しい

円周率の歴史(Wikipedia)

これによると、90年代末には、この書籍の著者である金田氏本人によって2061億ケタの計算が実現されている。10年間で1000倍の伸び。
そして2012年の現在では、会社員である近藤茂氏が一般のパソコンを使って10兆ケタを求めることに成功している。
まさに驚くような記録の伸びである。
これから先、まだ記録は伸び続けるだろうか。

さて、この本の中では、「πの値だけを印刷した『πの値』という本の企画が没になった」という話も紹介されていたりして、なかなか興味深い。
図らずも、まさにその企画を実現した書籍「円周率1000000桁表」が2007年に出版されている。

円周率1000000桁表



πの歴史 (ちくま学芸文庫)