「物理・こんなことがまだわからない」(大槻義彦著)

昨日のエントリで Powers of Ten を紹介した。
■ Powers of Ten

「物理・こんなことがまだわからない」は、10年以上前に出版された書籍だが、その中にミクロの世界の話があったなぁ、とぼんやり思い出したので、書棚から引っ張り出してきた。懐かしい。

さて、物質を細かく分割すると、限られた要素の集合に還元できるという考えは古代ギリシャデモクリトスにさかのぼることができる。今では、物質の基本要素として原子があり、その中には原子核があることがわかっている。
さらに原子核の中には陽子と中性子がある。ここからは素粒子の世界だ。素粒子にはレプトン、中間子、バリオンと呼ばれるものが見つかっているが、実はこれらはほんの一部で、200以上の素粒子の存在が確認されている。
このような素粒子は、さらに小さくて少数の粒子の集合で構成されていることが判明し、それらはクォークと名付けられている。(書籍より)

中学校で、「物質の最も小さな構成要素は原子である」と学習したような記憶があるが、それと比べると、あまりの小さな世界のことに目眩がしてくる。

しかし、このような『要素主義』のアプローチは、そろそろ限界に近付いてきていると言う。その理由は、内部を調べるために必要な加速器の建造が、経済的に不可能になりつつあるからだそうだ。
なるほど、確かに科学の発展は、我々の経済活動の上に成り立っていると考えれば、もっともな話だ。

しかし、大槻教授はこのことを悲観しない。要素主義ではなく、『構造主義』の流れに期待を寄せている。構造主義とは、次のように書かれている。

私たちの身のまわりの世界をあるがままに理解し、それらの変化や関連性などの中から、表面的な自然現象に隠されている不変の構造、あるいは法則を見出そうとするアプローチ

この構造主義的な考えの例として、波(波動)、流れ、熱、電気、磁気、電磁気などが挙げらている。なるほど、流体の研究で必ず登場する、ナビエストークスの方程式などは、要素主義的なアプローチでは決して導き出せないものであろう。
要素主義は理学、構造主義は工学と見なしても、あながち見当違いではないかもしれない。

というようなことを、昔懐かしいブルーバックスシリーズの1つである「物理・こんなことがまだわからない」を手にとって思い耽ったのであった。


もしかしたら、この書籍に載っている話は、少し古くなってしまっているかもしれない。素粒子に対する理解は、その後さらに進んでいる。

ちょうど昨日に、CERNで反物質を1000秒以上にわたって閉じ込めることが成功している。さらに一歩、科学が物質の真理に近づいた出来事である。

要素主義の発展はまだしばらく期待できそうだ。
「反物質」16分閉じ込め、宇宙の謎解明へ一歩(読売新聞)

ビックリするほど素粒子がわかる本 (サイエンス・アイ新書)

ビックリするほど素粒子がわかる本 (サイエンス・アイ新書)