人工知能と人工生命の基礎

人工知能と人工生命の基礎

人工知能と人工生命の基礎

東京大学人工知能の基礎研究をしている伊庭斉志教授による、人工知能と人工生命に関する本。

後半、さまざまな人工知能、人工生命に関する研究の紹介があるけど、人工知能や人工生命に関する研究の大きな変遷を知るうえで、第1章の内容がとても興味深い。
簡単にまとめてみる。


人工知能(AI, artificial intelligence)の研究には2つの立場がある。
・人間の知能そのものを持つ機械を作る(強いAI)
・人間が知能を使ってすることを機械にさせる(弱いAI)

「強いAI」の実現には、「知能とは何か」ということを明らかにする必要がある。これだけで非常に難しい問題であり、現在のAI研究のほとんどは「弱いAI」の研究。

アラン・チューリングの論文の1つに「コンピュータにも独創的なことはできないが、人間もまた独創的でない」という主旨のものがある。

機械が知能を持っているか否かを判定するための「チューリングテスト」とは次のようなもの。
・電子メールを介して機械(システム)とメッセージのやりとりをした結果、相手が人間であるのかコンピュータであるのかを区別できなかった場合、その機械(システム)は知能をシミュレートしていると言える。

このようなコンテストはインターネット上でも行われていて、ローブナー賞と呼ばれる世界大会がある。


人工知能の成功例には、次のようなものがある。
・ELIZA(1966):精神分析医を模した会話システム。わずか数百行のプログラムだが、秘書が会話中毒になってしまった。
・PAPPY(1972):統合失調症の患者を装うシステム。多くの精神科医は人間と誤って判定した。

以上のような例から「そもそも人間の会話はそれほど知的ではない」という見方もある。


人工知能の研究、人工生命の研究、ともに「知能とは何か」「生命とは何か」という大きな問題が未解決でありながらも、着実に研究が進んでいるのが興味深い。
「知能」とは、それがいったい何であるのかということがわからなくても、膨大な量の情報処理が知能と見なせる何かを産み出すのかもしれない。量が質に転化するのかもしれない。
やがてコンピュータは人間よりも知的になると予想されている。