人生生涯小僧のこころ

人生生涯小僧のこころ

人生生涯小僧のこころ

奈良県吉野山金峯山寺蔵王堂から大峯山までの往復48キロ、高低差1300メートル
これを16時間かけて1日1往復する
山が開いている4か月間の約110日間、これを毎日毎日継続して行う。
これを9年間続けることで、合計1000往復。
1日でも歩けない日があれば、その場で修行は終了。自ら命を絶たなければならない決まりになっている。

こんな大峯千日回峰(おおみねせんにちかいほう)の偉業を成し遂げた、一人の修験者の回顧録。


夜11時25分に起床。
滝に身を打たれながら般若心教を唱える滝行。
500段の階段を登った参籠所(さんろうしょ)で身支度。
折り返し地点である大峯山に着くのは朝の8時ごろ。
そこからまた、元の金峯山まで折り返す。
途中にある神社や祠の前で、それぞれ般若心教を唱えるのだが、その数は118箇所にのぼる。
蔵王堂に戻ってくるのはおよそ午後3時半。
洗濯、次の日の準備は自分ですべて行い、就寝するのは午後7時ごろ。
4時間半の睡眠ののち、ふたたび次の日の行(ぎょう)が始まる。


こんな想像を絶する厳しい修行を見事に成し遂げた人物が、今の時代、この日本に居るということに驚かされる。
身体に不調があっても、どんなに苦しくても、途中でやめることは許されない。苦しい行を継続しながら身体の不調に耐え、それを回復させなければならない。
驚くような精神の強さに、ページをめくりながら何度も身震いした。


インターネット上でさまざまな情報が簡単に手に入る今でも、このような回顧録は書籍と言う形でしか手に入りにくい。
久しぶりに、現実世界の中の別世界の様子を垣間見た気がした。

しかしながら、修行の中で、修行を達成したことによって見えてくる世界は、実際に修行を終えたひとにしかわからないのだろう。
999日目の行の後にしたためられた
「九百九十九日生涯小僧」
に込められた思いを想像すると、自分の「生涯」についても改めて考えさせられる。