武田邦彦氏の発言について

テレビ番組やネット上で、放射線の危険性を説く武田邦彦氏(中部大学教授)に対する賛否両論が交錯している。

工学博士の学位を持ち、職歴も立派であり、さらに、氏の発言内容は、放射線の危険を積極的に唱えるものであるから、一般市民には広く支持されているようだ。一般的な専門家が「健康への影響は少ない」と発言している低レベルの被ばくを「危険だ」と断言している点が際立っており、放射線におびえる人々からは多大な信頼を得ているように見える。

しなしながら、私自身は武田氏のブログにある次の記述を見て驚いた。

■ 「水飲み事件」と「黙れ!」事件・・・瓦礫に反撃 (H23.11.6 武田邦彦
http://takedanet.com/2011/11/post_1d6d.html

(以下引用)

都民が心配しているのは、福島原発から漏れた量は政府発表でも約80京ベクレル(万テラベクレル)で、その2倍、3倍というデータもあります。これを日本人一人あたりで割ると、一人あたり80億ベクレルになります。

人間が健康を維持する限度は1年1ミリで、かならず病気になるのが1年100ミリです。1キログラム100ベクレルの食品を1日で食べると1ミリシーベルトの被曝を受けますから、1年100みミリになるのは1万ベクレルの食品を食べることを意味しています。

つまり80億ベクレルというのは毎日、必ず病気になる1年100ミリなる食事を80万日食べることを意味しています。

何かの間違いではないかと思って、何度も読み返してしまった。
なぜ福島の原発から漏れた放射線量を人口で割るのか? なぜそれが汚染された食品を食べることを意味するのか? なぜ「必ず病気になる」のか、私にはさっぱり理解ができない。

工学系の人間がこのような文章を書くなんてことが、ありえるのだなぁ、と心底驚いた。
武田邦彦氏の発言を盲目的に信じている人は、少なくとも、武田氏はWebでこういった、まったく論理的でない情報発信をするような人物であるということは、知っておいた方がいいだろう。

最後の一文の

つまり80億ベクレルというのは毎日、必ず病気になる1年100ミリなる食事を80万日食べることを意味しています。

は、本当に何を言っているのか理解に苦しむが、少なくとも「年間100ミリシーベルトの被ばくで必ず病気になる」という発言は完全な誤りであるから(年間100ミリシーベルトの被ばくでガンによる死亡率が0.5%高まると推定されている)、このような発言は「いたずらに人の不安を煽っている」と言っても差支えないだろう。

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