研究者の戦闘力

研究者の能力はどのように測ればよいだろうか。
優れた研究者には、潤沢な研究予算と時間を与えるべきだと考えるのであれば、研究者の能力を客観的な数値で表すことが重要となる。
ドラゴンボールに出てくるスカウターのようなもので能力を測定できればいいが、そうもいかない。これまでに各種の指標が用いられてきたので、それを紹介しよう。

■論文数(Publications)
研究者の能力を測る一つの指標に、発表済みの論文数(Publications)を見ることが考えられる。しかしこれでは、質の高い論文を10編書いた研究者より、質の低い論文を100編書いた研究者の方が高い評価となってしまう。

インパクトファクター(Impact Factor, IF)

質の高い論文とは何であろうか。論文が掲載される論文誌(学術雑誌, Journal)には、ネイチャーのように、掲載されること自体が名誉となるようなレベルの高い論文誌と、そうではなく、わりと簡単に掲載される論文誌が存在する。したがって、掲載された論文誌の質(インパクトファクター)によって論文の質を測ることが考えられる。
しかし、マイナーな論文誌に掲載され、掲載時当時はほとんど見向きもされなかった論文が、ある日突然、その内容を評価されて有名な論文となることもある。論文誌のインパクトファクターでは、このような、論文誌の評価から突出した優れた論文を評価できないという問題がある。その逆もしかり。優れた論文誌には載ったものの、他の研究者からあまり参考にされない論文というものも当然存在する。また、新しくできたばかりの論文誌にはインパクトファクターという指標が無いという問題もある。

■被引用数(Citations)
通常の論文の中では、その関連分野の中で著者が重要と考える論文を「参考文献」として引用するのが一般的だ。したがって、他の論文から引用された数「被引用数(Citations)」は論文の質を評価するのに適切であると考えられる(よいWebページは多くのWebページからリンクされるのと同じ考え方)。
したがって研究者そのものの能力も、「論文数」よりも「被引用数の合計」で評価した方が適切であると考えられる。
以前は、自分の論文が誰からどのように引用されたか、「被引用」の情報を得ることは難しかったが、最近では論文のデータベースが整備されてきたことにより、「ある論文を引用している論文」を簡単に知ることができる。したがって、このような「被引用数」も容易に調べられるので、この値によって論文の質(他の研究者に与えた影響の大きさ)、ひいては研究者の質を評価することが可能となっている。

■H-index
被引用数の合計で研究者を評価すると、被引用数2の論文を50編もつ研究者と被引用数50の論文を2編もつ研究者の評価が同じになってしまう。これは妥当と言えるだろうか?
このような疑問から考案された指標として、論文の数と被引用数の両方を考慮した H-indexと言うものがある。
H-indexがNの研究者は「被引用数がN以上の論文が少なくともN編ある」ことを示す。例えば、H-indexが10の研究者は「被引用数が10以上の論文が10編ある」ということになる。
下の図はWikipediaのH-indexの項(英語)から持ってきたもの。

図だとわかりにくいが、次のように理解すればよい。
まず、被引用数の多いものから順番に論文を並べ、被引用数と順位をグラフにプロットする。直線y=xのグラフよりも上側にある点の数が H-index である。

■G-index
H-indexと似た指標で、こちらも論文の数と被引用数の両方を考慮したもの。上位g番目までの論文の被引用数の総和がg^2以上となる最大のgの値を指標とする。G-index の方が H-index より値が小さくなる傾向がある。


以上、いくつかの研究者の戦闘力を評価するために現在用いられている指標を示した。
これらの値は全て、Microsoft Academic Searchで研究者の名前を入れれば一発で明らかになる。

しかし、このような指標は、過去のアウトプットに基づく評価であるため、経験の長い研究者、または共同研究者が多い研究者ほど値が大きくなる傾向がある。新進気鋭の優れた若手研究者を発掘する目的には適さない。


Microsoft Academic Search
http://academic.research.microsoft.com/

□NII 論文情報ナビゲータ
http://ci.nii.ac.jp/

Google Scholar
http://scholar.google.co.jp/


参考:
MicrosoftAcademicSearchのすゝめ(くまメモ)
論文を探すなら「Microsoft Academic Search」が便利
ビブリオメトリックスと研究評価(佐藤翔)

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